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北海道余市町におけるリンゴ栽培の歴史（明治期～現代）

北海道余市町（よいちちょう）は、日本で初めてリンゴ栽培に成功した地として知られています​town.yoichi.hokkaido.jp。明治初期の開拓期に、旧会津藩の士族（会津藩士）たちがこの地に入植し、未知の果樹であったリンゴの栽培に挑戦しました。その努力は実を結び、余市はリンゴの「発祥の地」として農業史に名を刻みます。本稿では、明治期の開拓から現代に至るまで、余市町におけるリンゴ栽培の歴史を網羅的に振り返ります。特に、会津藩士が果たした役割とその歴史的意義に注目し、栽培技術の発展や品種の移り変わり、地域経済・観光との関わり、そして現代の状況までをわかりやすく解説します。

開拓期：会津藩士とリンゴ栽培の始まり

明治元年（1868年）の戊辰戦争で敗北した会津藩は朝敵の汚名を着せられ、藩士たちは斗南（青森）への減転封や東京での謹慎を経た後、新天地北海道への移住を命じられました​town.yoichi.hokkaido.jp​town.yoichi.hokkaido.jp。明治2年から4年頃にかけて、旧会津藩士団およそ200戸が北海道に渡り、明治4年（1871年）に後志（しりべし）管内の余市へと入植します​town.yoichi.hokkaido.jp。彼らは余市川沿いに開墾地を拓き、川東に4か村、川西に2か村（黒川村・山田村など）を設けて畑作や開拓に従事しました​town.yoichi.hokkaido.jp。慣れない土地での農業は苦難の連続で、一時は移住先が定まらず小樽で1年半も足止めされるなど、彼らの生活は困窮を極めました​town.yoichi.hokkaido.jp。

そうした中、北海道開拓使の支援により彼らにリンゴ栽培の機会がもたらされます。明治政府は開拓事業の一環として西洋農法を導入し、明治5年（1872年）にアメリカ・ミシガン州からリンゴや西洋ナシ、ブドウなど75種余りの果樹苗を輸入しました​town.yoichi.hokkaido.jp​town.yoichi.hokkaido.jp。お雇い外国人のルイス・ベーマー（Louis Boehmer）を果樹栽培の顧問として招き、東京の青山試験農園でリンゴの接ぎ木技術を指導させるなど、本格的な果樹導入が図られました​fruits-nitori.jp。明治8年（1875年）、ベーマーが管理番号を付けたリンゴ苗木が北海道各地に配布され、余市の入植者にも無料で苗木が配られました​fruits-nitori.jp​town.yoichi.hokkaido.jp。記録によれば、同年に余市へ配布されたリンゴと洋ナシの苗は合わせて1,560本にも上ったといいます​town.yoichi.hokkaido.jp。この時、旧会津藩士の一人、中田常太郎が余市代表として東京の青山官園に派遣され、ベーマーの下で果樹栽培を学んだことも伝えられており、入植者たちの熱意が感じられます​fruits-nitori.jp。

しかし、最初は配布された苗木の扱いに戸惑う人も多く、「役人が言う滋味豊富な珍果」と言われてもピンと来ず、興味を示さない農家もありました​town.yoichi.hokkaido.jp​town.yoichi.hokkaido.jp。栽培マニュアルも乏しく、刀を鍬（くわ）に持ち替えたばかりの**「リンゴ侍」**（入植者たちはそう揶揄されました​bushoojapan.com）が未知の果樹を育てる試みは容易ではありません。多くの苗木が枯れる失敗を繰り返しながらも、彼らは懸命に世話を続けました​bushoojapan.com​bushoojapan.com。

そして明治12年（1879年）、ついに努力が実を結びます。山田村に暮らす旧会津藩士、赤羽源八と金子安蔵の宅地で植えていたリンゴの木に、それぞれ初めて果実が実ったのです​town.yoichi.hokkaido.jp。赤羽家のリンゴは当時「19号」と呼ばれた品種で6個、金子家では「49号」のリンゴ7個が収穫されました​town.yoichi.hokkaido.jp。これこそが日本ではじめて実ったリンゴであり、記念すべき余市リンゴの誕生でした​town.yoichi.hokkaido.jp。翌明治13年にもリンゴは豊かに結実し、1本の木から50kg近く収穫できるほどになったといいます​town.yoichi.hokkaido.jp。余市で収穫されたリンゴは札幌で開催の農業博覧会にも出品され、来場者の評判を呼びました​town.yoichi.hokkaido.jp。当時リンゴ1貫目（約3.75kg）が白米4升（約6kg）に相当する高値で取引され、入植者たちにとって貴重な収入源となりました​town.yoichi.hokkaido.jp。

この初結実を機に、入植者たちは自らリンゴの命名を行います。19号のリンゴは鮮やかな緋色の果皮を持っていたことから「緋の衣（ひのころも）」と名付けられました​town.yoichi.hokkaido.jp。この名には深い意味が込められています。会津藩主・松平容保（まつだいら かたもり）は幕末期に京都守護職を務め勤王の志を示しましたが、戊辰戦争では新政府軍に敗れ「逆賊」とされました。容保が孝明天皇から下賜された緋色の陣羽織「緋の御衣」は会津武士の誇りの象徴でした​town.yoichi.hokkaido.jp。入植から8年後、北の荒野で実った真紅のリンゴに彼らはこの会津の魂の色を重ね、「緋の衣」と名付けたのです​town.yoichi.hokkaido.jp。一方、49号のリンゴには「国光（こっこう）」という名が与えられました​town.yoichi.hokkaido.jp。こちらは「国家の光」を意味するめでたい名前で、新天地での開拓が国家の繁栄に繋がるようにとの願いが込められていたとも言われます。こうして、余市のリンゴ栽培は会津藩士たちの誇りと悲願を背負ってスタートを切りました。

栽培技術の発展と品種の変遷

初めてリンゴが実った明治12年以降、余市ではリンゴ栽培が軌道に乗り始めました。とはいえ、当初は各地でリンゴ品種の名前や管理に混乱も生じました。開拓使が輸入した苗木はすべて番号で管理されていましたが、輸入時の番号と北海道へ送付された際の番号が異なる場合もあり、同じ品種でも地域ごとに呼称がバラバラだったのです​town.yoichi.hokkaido.jp。例えば、余市で19号と呼ばれたリンゴは山形県でも「緋の衣」として知られていた一方、青森県津軽地方では「松井」と呼ばれていたとの記録があります​town.yoichi.hokkaido.jp。この状況を是正するため、明治27年（1894年）には仙台で関係者が集まり苹果（リンゴ）名称選定会（帝国苹果名称選定会）が開かれ、翌年にかけて計4回の会議で全国的な品種名の統一が図られました​town.yoichi.hokkaido.jp。その結果、55種のリンゴについて正式名称が定められ、19号は第3回会議（明治28年）で晴れて「緋の衣」に統一されています​town.yoichi.hokkaido.jp。

明治24年（1891年）には北海道果樹協会が設立され、翌25年には第1回果実品評会も開催されるなど、北海道における果樹栽培の体制整備も進みました​town.yoichi.hokkaido.jp。明治30年代（1897～1906年）頃になると余市町内のリンゴ栽培面積はますます拡大し、大規模な果樹園経営を行う農家も増えていきます​town.yoichi.hokkaido.jp。この時代、品質評価が最も高く高値で取引された品種は他ならぬ「緋の衣」でした​town.yoichi.hokkaido.jp。艶やかな赤色と優れた風味を持つ緋の衣は評判が良く、東京市場はもとより、海を隔てたロシアにまで出荷されるほどの人気を博したと伝えられています​bushoojapan.com。一方で収量面では、アメリカ原産の「紅玉（こうぎょく）」が有望視され始めます。紅玉は明治初期に導入された小ぶりで酸味のある赤リンゴで、明治末から大正期にかけて全国的に生食・加工両面で需要が高まりました。実際、昭和初期には紅玉が余市でも最も多く生産される品種となり、次いで緋の衣、国光、鶴の卵、黄龍などの品種が栽培されていたとの記録があります​town.yoichi.hokkaido.jp。この頃には余市産リンゴの商標ラベルも作られ、各品種名が誇らしげに記載されたカラフルな荷札が果実箱に貼られていました。

 余市産リンゴの古いラベル（昭和戦前期頃）。中央の英字「KING OF TOMPKINS CAUNIY（County）」は品種「緋の衣」の原種名で、明治期に米国より導入されたキングオブトンプキンスカウンティ種を示しています​town.yoichi.hokkaido.jp。余市ではこの品種に「緋の衣」という名を与えブランド化しました。他方でラベル右側には「国光」や「紅玉」といった文字も見え、当時余市で主要だった複数のリンゴ品種が併記されています。昭和初頭にはこのようなラベルを用いてリンゴの販路拡大が図られ、**大正10年（1921年）には「北海道余市緋ノ衣連合会」**という生産者団体も結成されました​town.yoichi.hokkaido.jp。全国的にも有名になった余市リンゴを一層売り込もうという、生産者の意気込みが窺えます。

品質の高さで名声を博した緋の衣ですが、昭和に入ると徐々に生産量は減少していきます。それには品種改良の波と市場ニーズの変化が影響しました。アメリカで育成されたデリシャス系統（いわゆる「赤デリシャス」種）は大型で甘みが強く、1920年代以降世界的に普及したリンゴです。日本にも導入され、昭和初期から中期にかけては枝変わり品種のスターキング・デリシャスなどが各地で栽培されました。余市でも戦後しばらくはデリシャス系統が主要品種の一つとなり、その名は昭和27年（1952年）制定の「余市りんご小唄」の歌詞に緋の衣・国光・紅玉と並んで登場しています​town.yoichi.hokkaido.jp。しかし、デリシャス系品種は昭和50年代（1970年代後半）になると価格低迷に見舞われます​town.yoichi.hokkaido.jp。輸送技術の発達により青森県など本州産リンゴとの競合が激化したことや、追い打ちをかけるように北海道を襲った台風被害で実が落果して商品価値を下げてしまうケースが増えたことが背景にありました​town.yoichi.hokkaido.jp。余市でも当時多く作られていたスターキングが売れず、生産農家は困窮します。

地域経済と観光への影響

リンゴ産業の発展は、余市町の地域経済と暮らしにも大きな影響を与えてきました。余市はもともと江戸期～明治にかけてニシン漁で繁栄した港町でしたが、ニシンは昭和29年（1954年）を最後に姿を消し、水産業は転機を迎えます​jichiro.gr.jp。その中で果樹産業は地域経済を支える重要な柱となりました。明治以来、余市では果樹栽培が盛んに行われており、リンゴ・ナシ・ブドウの生産量はいずれも北海道内第1位を誇っています​jichiro.gr.jp。戦後復興期には北海道各地でリンゴやブドウの増産が図られ、余市でも果樹園の規模拡大や新品種の導入が積極的に行われました​jichiro.gr.jp。昭和30～40年代にはリンゴの収穫量が増え、町の農業産出額の大きな割合を果樹が占めるようになります。リンゴの販路拡大策として、昭和28年（1953年）には町を挙げて「余市町リンゴ祭」が開催され、鉄道で訪れる旅客の目・耳・味覚に訴える盛大なイベントが企画されました​town.yoichi.hokkaido.jp。この祭りは町内向け行事から観光客も呼び込むキャンペーンへと発展し、特産リンゴのPRと販売促進に大きな役割を果たしました​town.yoichi.hokkaido.jp。現在でも毎年秋には「味覚の祭典・よいち大好きフェスティバル」など収穫を祝うイベントが行われ、余市産のリンゴやブドウが観光客にも振る舞われています。

また、リンゴが結んだ歴史的縁が観光交流へ繋がった例として、会津若松市との交流があります。先祖が余市開拓に携わった福島県会津若松市の市民が昭和後期以降たびたび余市を訪れるようになり、平成27年（2015年）には両市町が親善交流都市を締結しました​town.yoichi.hokkaido.jp。調印式では、リンゴ栽培に始まる深い歴史的つながりを礎に、教育・文化・産業・観光にわたる交流を一層深めることが確認されています​town.yoichi.hokkaido.jp。毎年、会津から余市への観光ツアーが企画されたり、逆に余市から会津のリンゴゆかりの地を訪ねたりといった交流が続いており、150年以上前の会津藩士たちの足跡が現代の架け橋となっています。

リンゴ産業はまた、余市に新たな産業を呼び込むきっかけともなりました。ニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝はスコットランドでウイスキー造りを学んだ後、昭和9年（1934年）に余市町に蒸溜所を設立します。竹鶴が北海道の余市を選んだ理由の一つに、この地がリンゴの名産地であったことが挙げられます。ウイスキーが熟成するまでの間、副産業としてリンゴを原料にした酒類（アップルブランデーやシードル）を製造・販売し経営を支える計画を立てていたのです。事実、ニッカウヰスキーの前身社名は「大日本果汁株式会社」といい、リンゴジュースやリンゴワインの製造販売から事業を開始しました。品質に妥協を許さなかった竹鶴にとって、味の良いリンゴが豊富に採れる余市は理想的な土地だったといいます​bushoojapan.com。こうしたエピソードからも、リンゴが地域産業にもたらした波及効果の大きさが伺えます。現在、竹鶴の蒸溜所（ニッカウヰスキー余市蒸溜所）は年間100万人近い観光客が訪れる人気スポットですが、その影にはリンゴ産業で培われた地域の食文化・農業基盤があったのです。

現代の余市リンゴとその展望

今日の余市町では、リンゴ栽培は質・量ともに充実し、多様な品種が育てられています。JAよいち（余市農協）によれば、町内で生産されているリンゴは約20品種にのぼり、農家は収穫期の異なる品種を十数種類ずつ組み合わせて栽培しています​hokuren.or.jp。たとえば**一番早く収穫が始まるのは「つがる」で、夏の終わりから初秋にかけて色づきます。続いて「紅露（レッドゴールド）」や北海道生まれの「姫神」「昴林（こうりん）」「王林」など中生種が次々と実り、最後は晩生種の「ふじ」**で締めくくられるリレー方式です​hokuren.or.jp。1軒の農家で10種類以上ものリンゴを育てているケースも珍しくなく、長期にわたって新鮮なリンゴを出荷できる体制が整っています。

品種改良の面でも、北海道ならではの取り組みが進んできました。寒冷地に適したリンゴを開発すべく、北海道立農業試験場（現・道総研）では昭和後期から交配育種が行われ、1986年（昭和61年）には北海道初のオリジナル品種「ハックナイン」（HAC-9）が誕生しています​ringodaigaku.com。ハックナインは400g近い大玉で果汁が多くジューシーな甘酸っぱいリンゴで、現在も道内各地で栽培される人気品種です​ringodaigaku.com。平成以降も「旭（あさひ）」「涼香（りょうか）」「夏乙女」など北海道生まれの新品種開発が続き、余市でも試験的に導入されています。もっとも、市場をリードする主力品種は本州生まれの**「ふじ」である点に変わりはなく、収穫期の晩秋には余市でも甘く大きなふじがたわわに実ります。また近年は酸味と甘みのバランスに優れた「シナノゴールド」**（長野県育成）なども取り入れられ、多彩な味のリンゴが町内の直売所や観光農園で楽しめます。余市町観光協会によれば、町内で栽培されているリンゴ品種は少なくとも10種類以上に及ぶとのことで​yoichi-kankoukyoukai.com、観光客向けに品種ごとの味わいの特徴を紹介する取り組みも行われています。例えば、甘みの強い「秋映」や「ジョナゴールド」、さっぱりとした「紅玉」や「千秋」など、好みに応じたリンゴ選びを提案するガイドが提供されています​yoichi-kankoukyoukai.com。

リンゴ産業は依然として余市町の基幹産業の一つです。令和に入った現在でも、リンゴやナシ、ブドウといった果樹生産は北海道内トップクラスであり​jichiro.gr.jp、毎年秋には観光農園でのリンゴ狩りが道内外からの来訪者で賑わいます。近年の健康志向の高まりでリンゴを原料としたジュースやシードル（発泡酒）への注目も集まっており、余市産リンゴ100%のジュース「りんごのほっぺ」は昭和60年代からのロングセラー商品です​town.yoichi.hokkaido.jp。また、リンゴを使った菓子やジャムなどの加工品開発も活発で、特に幻の品種「緋の衣」を使ったアップルパイやジュースは、会津との絆を伝える復刻の味として一部で販売されています​bushoojapan.com。緋の衣はその希少性ゆえ流通量こそ限られますが、平成12年（2000年）に会津若松市が余市から苗木を譲り受けて栽培を開始し、故郷会津で実を結ぶまでに復活しました​bushoojapan.com。現在では余市と会津の双方で細々と栽培が続けられ、往時を偲ばせる存在となっています​bushoojapan.com。

以上、北海道余市町におけるリンゴ栽培の歴史を明治の開拓期から現代まで辿ってきました。逆境の中でリンゴ栽培に挑んだ会津藩士たちのパイオニア精神と、その成功がもたらした地域振興の物語は、150年を経た今日でも色褪せることなく語り継がれています。緋の衣に象徴される真紅のリンゴは、会津の誇りと開拓者の情熱を今に伝えるシンボルです。当時「リンゴ侍」と揶揄された人々の努力が、日本の果樹王国・北海道の基礎を築き、余市町を豊かな果実の里として発展させました​jichiro.gr.jp。リンゴを通じて築かれた絆は地域の歴史遺産であり、これからも観光や交流を通じ新たな物語を紡いでいくことでしょう。余市町のリンゴ栽培の歩みは、まさに歴史と実りのドラマといえるのです。

年表：余市町リンゴ栽培の歩み

• 1869～71年（明治2～4年） – 戊辰戦争後、旧会津藩士団が北海道開拓移住を命じられ、小樽を経て余市に入植​town.yoichi.hokkaido.jp。
• 1872年（明治5年） – 北海道開拓使が米国よりリンゴなど果樹苗を輸入​town.yoichi.hokkaido.jp。旧会津藩士・中田常太郎が東京青山官園で果樹栽培を研修​fruits-nitori.jp。
• 1875年（明治8年） – 開拓使が果樹苗木を道内各地に無償配布。余市にはリンゴ・洋ナシ計1,560本の苗が配られる​town.yoichi.hokkaido.jp。
• 1879年（明治12年） – 余市で日本初のリンゴ結実。赤羽源八宅で19号（後の緋の衣）6個、金子安蔵宅で49号（後の国光）7個を収穫​town.yoichi.hokkaido.jp。
• 1880年（明治13年） – 余市産リンゴを札幌農業博覧会に出品、好評を博す。リンゴ1貫＝白米4升の高値で取引され、本格的な栽培が定着​town.yoichi.hokkaido.jp。
• 1894年（明治27年） – 仙台で第1回苹果名称選定会開催。翌年までに全国で計4回開かれ、主要55品種の名称を統一​town.yoichi.hokkaido.jp（19号は「緋の衣」に決定​town.yoichi.hokkaido.jp）。
• 1891年（明治24年） – 北海道果樹協会設立。1892年に第1回果実品評会開催​town.yoichi.hokkaido.jp。余市でもリンゴ園が拡大、緋の衣が高評価を得る​town.yoichi.hokkaido.jp。
• 1900年代初頭（明治末～大正） – 緋の衣が東京やロシアでも販売される人気品種に​bushoojapan.com。一方、紅玉（ジョナサン）が普及し主要生産品種となる​town.yoichi.hokkaido.jp。
• 1921年（大正10年） – 「北海道余市緋ノ衣連合会」結成​town.yoichi.hokkaido.jp。特産リンゴ緋の衣の販路拡大とブランド化を推進。
• 1934年（昭和9年） – ニッカウヰスキー余市蒸溜所設立。創業者竹鶴政孝はリンゴを原料にした酒造で事業開始（リンゴの町・余市に着目）​bushoojapan.com。
• 1952年（昭和27年） – 「余市りんご小唄」制定​town.yoichi.hokkaido.jp。歌詞に緋の衣・国光・デリシャス・紅玉など品種名が登場し、リンゴの町としてPR。
• 1953年（昭和28年） – 第3回余市町リンゴ祭開催​town.yoichi.hokkaido.jp。全町民参加の行事で盛況、以後秋の恒例イベントに。
• 1970年代後半（昭和50年代） – スターキング種の価格低迷と台風被害​town.yoichi.hokkaido.jp。リンゴ生産者が減少の危機を迎える。
• 1986年（昭和61年） – 余市農協がリンゴジュース「りんごのほっぺ」発売開始​town.yoichi.hokkaido.jp（初年度57万本を生産）。北海道初の育成品種「ハックナイン」種苗登録​ringodaigaku.com。
• 2000年（平成12年） – 会津若松市が緋の衣の苗木提供を受け栽培開始。約120年ぶりに会津の地で緋の衣が復活​bushoojapan.com。
• 2015年（平成27年） – 余市町と会津若松市が親善交流都市を締結​town.yoichi.hokkaido.jp。歴史的繋がりを活かし、観光や文化交流を深化させる。

主なリンゴ品種の紹介

• 緋の衣（ひのころも） – 明治期に初栽培。原種は米国由来の King of Tompkins County​town.yoichi.hokkaido.jp。深紅で芳香高いリンゴ。会津藩主ゆかりの名にちなみ、余市で日本初の結実を果たした歴史的品種​town.yoichi.hokkaido.jp。戦前は高級品種として人気を博したがその後生産減少​bushoojapan.com。現在は少量が保存栽培され、ジュースや菓子に利用​bushoojapan.com。
• 国光（こっこう） – 明治期導入（品種番号49）。黄紅色の中玉リンゴ。名前は「国の光」を意味する​town.yoichi.hokkaido.jp。緋の衣とともに日本初結実の品種で、昭和前半まで主要品種の一つ​town.yoichi.hokkaido.jp。甘酸適和の食味で日持ちが良く、戦後も昭和中期頃まで栽培された。
• 紅玉（こうぎょく） – 明治初期導入（品種番号6）。米国名 Jonathan。小ぶりで真紅の実、酸味が強い​town.yoichi.hokkaido.jp。明治末期から全国に広まり、生食のほかアップルパイなど加工用にも重宝された。余市でも昭和初期に最大産額を占めた品種​town.yoichi.hokkaido.jp。現在も根強いファンがあり、一部で栽培。
• デリシャス系 – 20世紀初頭に米国で普及した大型甘味種（赤色種は Red Delicious、黄品種は Golden Delicious）。日本には大正末期～昭和初期に導入。なかでも真紅の派生種「スターキング」は戦後余市で広く作付けされたが、1970年代に価格低迷​town.yoichi.hokkaido.jp。現在はほとんど姿を消し、一部観光農園等で見られる程度。
• ふじ – 1939年に青森県で育成（国光×デリシャス交配）。大玉で糖度が高く日持ち優秀。昭和50年代以降、日本全国で生産量トップの主力品種に成長。余市でも晩秋の収穫期に栽培され、現在もっともメジャーなリンゴとして定着​ja-yoichi.food-palette.com​hokuren.or.jp。貯蔵性が高いため冬場まで出回る。
• つがる – 1975年に青森県で育成（ゴールデンデリシャス×紅玉交配）。黄味がかった赤色、中玉で甘く柔らかい果肉。早生種の代表格で、余市では8月末～9月に最初に収穫されるリンゴ​hokuren.or.jp。果汁豊富で生食向き。名前は青森県津軽地方に由来。
• 王林（おうりん） – 1952年青森県生まれ（ゴールデンデリシャス系交配）。黄緑色で香り高く、甘みの強いリンゴ。収穫は中生で10月上旬頃から。余市でも栽培され、緑色リンゴの定番として親しまれる​hokuren.or.jp。酸味が少なくさっぱりした甘さが特徴。
• ハックナイン – 1986年登録。北海道が初めて開発したオリジナル品種​ringodaigaku.com。400g前後の大玉で紅色の縞が入る。柔らかな果肉に果汁たっぷりで甘酸バランス良好​ringodaigaku.com。10月下旬収穫の中生種。主に道内で生産され、余市でもジュース加工用などに利用。品種名は開発コード“HAC-9”に由来。
• 昴林（こうりん） – 1991年登録。北海道で生まれた品種（ふじ×ゴールデンデリシャス交配）。300g程度の赤色リンゴで糖度が高く食味良好。10月中旬収穫​hokuren.or.jp。名前は星座の昴（すばる）＋林檎の林から。余市を含む道内各地で栽培拡大中。

以上が余市町に関係の深い主なリンゴ品種です。時代とともに品種は移り変わりましたが、開拓者の血と汗が染み込んだリンゴの木は今も余市の地に根を張り、毎年見事な果実を実らせています。リンゴは余市町の歴史そのものと言っても過言ではなく、先人たちの残した樹から生まれる果実は、これからも地域の誇りと生業（なりわい）を支えていくことでしょう。

参考文献・出典（余市町・北海道の公式資料および農業史料を中心に作成）：

• 余市町ホームページ「余市町でおこったこんな話」第17話「リンゴ」​town.yoichi.hokkaido.jp​town.yoichi.hokkaido.jp​town.yoichi.hokkaido.jpほか、第124話「『緋の衣』の命名」​town.yoichi.hokkaido.jp​town.yoichi.hokkaido.jpほか、第2話「余市りんごの唄」​town.yoichi.hokkaido.jp​town.yoichi.hokkaido.jpほか、第135話「りんごのほっぺ」​town.yoichi.hokkaido.jp​town.yoichi.hokkaido.jpなど。
• 余市町公式サイト「会津若松市との交流」掲載情報​town.yoichi.hokkaido.jp​town.yoichi.hokkaido.jp。
• 北海道開拓記念館資料／北海道開拓クラブ「会津藩士と余市リンゴ」​town.yoichi.hokkaido.jp​town.yoichi.hokkaido.jp、BUSHOO!JAPAN「敗者の会津藩士たちが栽培したリンゴ『緋の衣』」​bushoojapan.com​bushoojapan.com等。
• 北海道農業関連史料（北海道果樹百年史、青森県りんご百年史）およびJAよいち・ホクレン情報​hokuren.or.jp​bushoojapan.com等。
• その他、朝日新聞地域版（2018年11月5日付）​asahi.com、本田屋「幻のりんご『緋の衣』復活」記事​bushoojapan.comなど。

１．はじめに　～海とリンゴのふしぎな出会い～

北海道の北西部、海と山に囲まれた余市町（よいちちょう）。
この町は、ニシン漁で栄えた港町でしたが、実は日本で最初にりんごを育てた場所でもあるんです。
広～い畑に風がそよぎ、青い空の下、赤く実ったりんごがキラリと光る―
―そんな風景を想像してみてください。
どうして余市でりんご？
そのヒミツを、わくわくの物語と一緒にのぞいてみましょう！

２．会津藩士の冒険　～リンゴ栽培への第一歩～

1871年、幕末の戦いで敗れた会津藩士（あいづはんし）たちが、新しい暮らしを求めてやってきました。
寒さと石ころだらけの土地に、彼らは小さなスコップで穴をほり、一本のりんごの苗木（なえき）を植えました。
わざわざ遠いアメリカから送られてきたりんごです。
「ここでりんごを育ててみよう！」と決意した会津の武士（ぶし）たちの、勇気ある第一歩でした。

３．赤い宝石の誕生　～初めて実った「緋の衣」と「国光」～

それから８年後の1879年、ついに小さな苗木に赤い実がなりました！
一つは深紅の「緋の衣（ひのころも）」、もう一つは「国光（こっこう）」。
会津藩主ゆかりの「緋色の陣羽織（じんばおり）」を思わせる色に「緋の衣」、国の明るい未来を願って「国光」と名づけたんですね。
この瞬間を見た入植者たちは、まるで宝石を見つけたかのように大喜びしました。

４．品種の名前あそび　～どうしてそんな名前がついたの？～

りんごには不思議な名前がいっぱい！
「紅玉（こうぎょく）」「ふじ」「王林（おうりん）」
…ぜんぶ聞いただけでワクワクしませんか？
紅玉は宝石のように真っ赤、ふじは富士山のように大きく甘い、王林は王様のりんごという意味。
どのりんご味見してみたい？
カードゲームみたいに名前と特徴を覚えれば、お店で選ぶのも楽しくなるよ！

５．蒸溜所とリンゴ　～ウイスキーと果物のふしぎな関係～

1934年、竹鶴政孝（たけつるまさたか）さんがニッカウヰスキーの蒸溜所を余市に建てました。
でもなぜりんご？
実はウイスキーができるまでに数年かかるあいだ、果汁やアップルブランデーを売って資金を集めようと考えたからなんです。
りんごがウイスキー造りの力になったなんて、果物も立派な大仕事ですね！

６．品種がふえる　～いろいろなリンゴがやってきた～

戦後になると、北海道の寒さに強い新品種（しんひんしゅ）が続々誕生。
「ハックナイン」「旭（あさひ）」「涼香（りょうか）」など、おいしくて大きなりんごが増えました。
収穫時期も早いものから遅いものまでバラエティ豊か！
「つがる」「王林」「ふじ」のリレーで、長～い秋を楽しめるんですよ。

７．りんご狩りでワクワク体験　～観光農園のひみつ～

秋風が気持ちよくなったら、いよいよりんご狩りシーズン！
カゴを片手に、りんごの木のそばへ。
赤や黄色の実をよ～く見て、自分だけの「おいしそう！」を探しましょう。
はさみの使い方、木にやさしく枝を持ちながらくるっと回すコツもマスターして、安全第一で楽しんでね。

８．おわりに　～リンゴがつなぐ未来～

150年以上前の小さな苗木から始まった余市のりんご物語。
今では20品種以上が花咲き、観光農園で世界中のお客さんを迎えています。
次はあなたが、新しいりんご品種のアイデアを生み出す番かも？
未来の果実を想像して、ワクワクの種をまいてみましょう！

コラム・おまけ

• 余市りんごクイズ：
  1. 日本で初めて実ったりんごの名前は？（答え：緋の衣／国光）
  2. ニッカウヰスキー余市蒸溜所ができた年は？（答え：1934年）
• リンゴ年表：
  • 1871年：会津藩士入植
  • 1879年：初結実（緋の衣・国光）
  • 1895年：品種名「緋の衣」決定
  • 1934年：ニッカ蒸溜所操業開始
  • 1986年：品種「ハックナイン」登場
  • 現在：20品種以上栽培、りんご狩り観光
• 用語ミニ辞典：
  • 苗木（なえき）：まだ小さい木のこと。
  • 接ぎ木（つぎき）：おいしいりんごの枝を別の木にくっつけて育てる方法。
  • 観光農園（かんこうのうえん）：お客さんが作物を収穫体験できる農園。

北海道余市町——北の大地に咲いた赤い夢

　積丹半島の付け根、青い日本海と穏やかな余市川に抱かれた小さな町・余市。
ニシン漁で栄えたこの港町に“りんごの木”が植えられたのは、まだ文明開化の息吹が届いたばかりの明治初年のことでした。

　刀を捨て、鍬を握りしめて辿り着いたのは旧会津藩士200余戸。
「北にもう一度、誇りの花を咲かせよう」
──彼らの情熱が、後に〈日本リンゴ発祥の地〉と呼ばれる物語の第一章を開きます。

◆ 会津藩士、荒野に種を播く（1871–1874）

　戊辰戦争の敗戦により“朝敵”とされた会津藩士は、斗南（青森）への減転封を経て北海道移住を命じられます。
最終目的地として示されたのは「余市」という聞き慣れぬ地名。
　1871（明治4）年、冬の荒波を越えた先にあったのは、石礫まじりの原野と厳寒の風。
彼らは余市川の両岸に六つの小村をつくり、まずは粟（あわ）や麦を播きながら、粗末な小屋で寒さをしのぎました。
移住以来一年半、小樽での足止めを余儀なくされた末の開墾は、飢えと孤独との闘いでもあったのです。

◆ 苗木1,560本の挑戦（1875–1878）

　転機は1875（明治8）年。
北海道開拓使はアメリカ・ミシガン州から取り寄せたりんごを含む果樹苗を、余市へ無償で配布しました。
その数、りんごと洋ナシあわせて1,560本。

　だが「珍果」と聞かされても、農民はその姿すら知りません。
接ぎ木の技術書もなく、冬は–20℃を下回る土地です。
芽が膨らむ前に凍れ（しばれ）て枯れる苗。
刀の柄を握っていた手は、今や凍土を掘り返す鍬で血豆まみれ……。
それでも彼らは苗木の根を雪室（ゆきむろ）で守り、春を待っては何度も植え替えました。
嘲笑をこめた「リンゴ侍」のあだ名は、やがて尊敬の呼び名へと変わってゆきます。

◆ 1879年、赤い宝石が実る

　明治十二年八月。
山田村の赤羽源八宅と金子安蔵宅──
二軒の庭で、ついにりんごの木が紅く色づきました。
　「十九号」には真紅の六果、「四十九号」には七果。
武士たちは息を呑み、北空にかかる稲光よりも眩しい輝きを見ました。
　──会津藩主・松平容保の緋色の陣羽織になぞらえた「緋の衣」。
　──国家の光を願った「国光」。
　その実りは札幌農業博覧会でたちまち評判となり、一貫目（約三・七五キロ）が白米四升という高値で取引されました。
彼らにとって、それは飢えを凌ぐ金以上に「誇り」の味だったのです。

◆ 品種名をめぐる全国会議（1894–1895）

　19号、松井、紅玉──土地ごとに違う呼び名は流通を混乱させました。
明治二十七年から翌年にかけ開かれた「帝国苹果名称選定会」で、全国五十五品種の正式名が決定。
余市から生まれた十九号は「緋の衣」、四十九号は「国光」と晴れて全国区の名を得ます。

　こうしてブランド価値が高まった緋の衣は、東京市場のみならずシベリア鉄道を経てロシアにも出荷され、極東の赤い宝石と呼ばれました。

◆ 大正・昭和——緋ノ衣連合会とウイスキーの町

　大正十年、余市の生産者120戸は「緋ノ衣連合会」を結成し、共同選果場と統一ラベルで販路を拡大。

　昭和九年には竹鶴政孝がニッカウヰスキー余市蒸溜所を創設。
長い熟成期間の“つなぎ”として、余市りんごのジュースとアップルブランデーが蒸溜所の柱を支えました。
のちに観光客を誘致する「蒸溜所＋果樹園」ツアーは、日本のアグリツーリズムの先駆けとなります。

◆ 北海道生まれの品種とリレー栽培

　戦後、紅玉やデリシャス系が全盛期を迎える一方、台風と価格暴落が生産者を苦しめました。
雪に耐え甘味を蓄える新たな品種が求められ、1986年に北海道初のオリジナル品種「ハックナイン」が誕生。

　余市の園地では早生の〈つがる〉から晩生の〈ふじ〉まで十数種を混植し、八月から十一月まで収穫が途切れない「リレー栽培」を確立。

現在、JAよいちの出荷品種は二十種を超え、観光農園では品種マップ片手に味と香りの違いを巡る「りんご探検」が人気です。

◆ 現代統計と経済インパクト

● 年間生産量： 約3,500トン
● 果樹産出額： 約30億円（町農業の40％）
● 観光客数（果樹園＋蒸溜所）： 約120万人／年
● 観光経済波及効果： 約50億円

　ジュース「りんごのほっぺ」は発売から四十年のロングセラー。
幻の「緋の衣」はアップルパイやシードルとして復刻され、会津若松との“赤い絆”を再び結んでいます。

◆ 未来へ——スマート農業とブランド保護

　ドローンが上空から病斑を検知し、IoTセンサーが土壌水分をアラート。
余市ではAI予測に基づく潅水・施肥が試験導入され、りんごは“データで育つ果実”へ進化しています。
　地理的表示（GI）取得と海外輸出ブランド戦略も進行中。
北の大地で輝く赤い実は、150年前のパイオニア精神を宿したまま、世界市場へと枝を伸ばそうとしています。

年表（主要項目）

おわりに

　一本の苗木を支えたのは、凍てつく風よりも熱い志でした。
緋の衣の深紅は、敗者と蔑まれた会津武士の誇りそのもの。
150年後の余市では、その赤が観光バスを染め、世界に向けて輸出され、子どもたちの自由研究を彩ります。
　リンゴはただ甘いだけの果実ではありません。
挑戦と再生、そして未来への希望を内に抱く“赤い物語”なのです。

海と山に抱かれた北海道・余市町。
夏は潮風が涼しく、冬は凍えるほどに厳しいこの地で、ひときわ鮮やかな赤い果実が揺れています。
――日本で最初に実ったリンゴ。その物語を、いまご一緒にたどりましょう。

時をさかのぼること150年。
戊辰戦争に敗れ、故郷を追われた会津藩士たちは、刀を鍬に持ち替え、北の荒野へと船を出しました。
行きついた余市の原野は、石混じりの土と強い潮風。
「ここで再び誇りを咲かせよう」――その思いだけを胸に、彼らは余市川の両岸に6つの小村を開き、畑を拓き、厳しい冬を耐え抜きます。

1875年。北海道開拓使がアメリカから取り寄せた75種類の果樹苗が、余市へと届けられました。
見たことのない西洋リンゴの苗は1,560本。
「珍しいだけの木かもしれぬ」と笑う者もいましたが、侍たちは土を掘り返し、雪室で苗を守り、1本1本に希望を託します。
やがて彼らは“リンゴ侍”。嘲りの響きを、誇りの2文字へと変えていきました。

そして1879年8月。
山田村の赤羽源八宅と金子安蔵宅――2軒の庭で、ついにリンゴの木が紅く色づきました。
「19号」には真紅の6果、「49号」には7果。
北の大地に咲いた“赤い宝石”は、札幌農業博覧会で白米より高く取引され、飢えに喘ぐ開拓者へ、甘く力強い勝利の味をもたらしました。

品種名が混乱していた1894年、仙台で全国の専門家が集まり、55品種の正式名を決定。
19号は「緋の衣」、49号は「国光」。
統一された名を掲げ、余市のリンゴは木箱に詰められ、鉄路と蒸気船でロシア極東へも渡ります。
海を越えた赤い宝石は、シベリアの港で“極東のルビー”と讃えられました。

大正10年、120戸の生産者が「北海道余市緋ノ衣連合会」を結成。
共同選果場、統一ラベル、糖度と酸度の科学分析――。
品質へのこだわりは、市場に「余市の赤は間違いない」という信頼を根づかせました。

1934年。スコットランド帰りの醸造家・竹鶴政孝が、余市の地を選んでウイスキー蒸溜所を築きます。
熟成を待つ長い年月――その間を支えたのが、余市産リンゴで造るジュースとアップルブランデーでした。
こうして生まれた「蒸溜所とリンゴ園」の二重奏は、やがて100万人を招く観光の柱となります。

戦後、紅玉やデリシャス系が畑を彩り、1986年には北海道生まれの〈ハックナイン〉が誕生。
いま余市では20種を超えるリンゴが、夏の〈つがる〉から秋深い〈ふじ〉へと、バトンを渡すように実ります。
ドローンが葉むれを見守り、IoTセンサーが土の水分を告げるスマート農業の時代。
それでも、赤く染まる瞬間に胸をときめかせる人の想いは、150年前と変わりません。

緋色に染まったひと口に、開拓者の汗と誇り、そして息づく北の大地の恵み。
リンゴは、余市を愛する人々の記憶をつなぐ“赤い夢”です。
これからも甘く、力強く。
北の畑で実るその夢は、世代を越えて、世界へと実り続けるでしょう。